2013年8月28日水曜日
シリア攻撃で窮地に立つオバマ大統領
アメリカによるシリア爆撃の可能性が高まっている。状況は1999年のユーゴスラビア空爆の時にそっくりだ。NHK の夜九時のニュースが解説したイラク戦争ではない。ユーゴ空爆では、ユーゴの「民族浄化」をやめさせるために、人道の名のもとに米、英を中心に約二か月半空爆が続けられた。
今回も化学兵器の使用をやめさせるために人道の名のもとに攻撃が行われるようだ。国際法上、攻撃をどのように正当化するかが問題だ。ロシアが強硬に反対している以上、安保理が承認するはずはない。
ユーゴの時もそうだ。住民虐殺、民族浄化が起きているといわれていたが、実際には、伝えられたほどの規模ではなかった。また反セルビア国家が宣伝工作に関与したことも後で明らかになった。さらに人道目的といわれていたが、セルビアがとても受諾できないようなコソボ紛争調停案を米英が提案し、それをミロシェビッチが拒否したことが空爆の大きな理由であったことも判明した。
人道を目的にするなら、反駁の余地のない証拠が必要だ。しかし、化学兵器が使用されたことは確かだが、だれが使用したか、国連の調査団は明らかにしていない。しかも、どのような種類の化学兵器で、どのようして使用されたかいまだに明らかになっていない。砲弾なのか爆弾なのか、いずれであれ砲弾や爆弾の破片から、だれが使用したかはある程度推測できるはずだ。英米ともに政府軍が使用したといっているが、その根拠はいまだに示されていない。
また今に至るも毒ガスの種類が明確になっていないのはなぜなのだろうか。神経ガスのサリンが疑われているが、ビデオで見る限り、治療や看護にあたっている人が比較的軽装でサリンに対処できるような恰好をしていない。みんな死体に平気で触れている。除染、中和したのだろうか。
映像で見ると、死体や負傷者に子供が多いのも気にかかる。かつてイラク軍がハラブジャでサリンを使った時には、瞬時に何百人もの人が死に、最終的には千人とも五千人とも言われる多数の死者が出ている。また毒ガスでは犬や猫も死ぬ。ハラブジャの写真には道路に人間だけでなく犬や猫の死骸も映っていた。今のところ、そうした映像は出ていない。
ユーゴ空爆のことを考えると、反政府側の宣伝工作の可能性は捨てきれない。ワシントンでは亡命シリア人が精力的にアメリカに支援を要請する活動を続けており、アメリカのシンクタンク、NGOも彼らの活動を支援している。アメリカの情報機関も彼らからの情報に基づいていると思われる。
化学兵器が使用されたのはダマスカス近郊だという。昨年私が行ったときには、中心部から2-3キロには反体制派が支配している地区があった。そこに連日のようにヘリから銃撃やミサイル攻撃をしていた。私はそれを撮影しようとして逮捕されたのだが、戦術的に見て、毒ガスを使うような場所とは思われない。またアサド政権が毒ガスを使用するほどに追い詰められている状況とも思えない。今毒ガスを使用して利があるのは、こう着した局面を打開したい反政府側だろう。シリア政府が強硬に否定し、国連の調査団を受け入れたのは自信があるからかもしれない。
一方で追い詰められているのはオバマ政権だ。オバマ政権は「核兵器なき世界」と大言壮語し、「チェンジ」と理想を語るばかりで、シリア問題でなんら指導力を発揮してこなかった。その間に数万人とも言われる犠牲者が出た。シリア問題だけではない、エジプトの反革命運動も拱手傍観するだけだ。リビア、パレスチナなども含め中東政策で具体的な成果はない。中東に関心の深いケリーが国務長官になって、彼のイニシアチブでパレスチナ問題が少し動き始めただけである。ただしすぐに行き詰ったが。さらに言えばオバマ政権は外交が苦手なのか、関心がないのか、演説でノーベル平和賞をとったこと以外に全く成果を出していない。ここで何らかの実績を挙げないと、無能の大統領という名を歴史に残すことになりかねない。
とはいえ、軍事力を行使しようにも、金がない。10月には最悪の場合、政府は財政破たんする恐れがある。イラク戦争のように地上軍を投入するような大規模な攻撃はとてもできない。ユーゴ空爆のように空からの攻撃だけで、しかも1998年のアルカイダによるナイロビ、ダルエスサラム米大使館自爆テロ攻撃の報復として、クリントン大統領がアフガニスタン、スーダンのアルカイダ施設を巡航ミサイルで攻撃(ちなみに国際法上この攻撃をどのようにアメリカ政府は正当化したのだろうか)したように、トマホーク巡航ミサイルの攻撃が精いっぱいだ。しかし、何を標的にするのだろうか。アルカイダ攻撃の時は、彼らの拠点(といってもテントだが)を目標にしたが、シリアでは何を目標にするのか。二次被害を考えれば、化学兵器の貯蔵施設を攻撃するわけにはいかない。だからと言って運用部隊を攻撃しようにも兵士は攻撃に備えて隠れるだろう。空になった兵舎を破壊しても意味はない。
ではユーゴ空爆のように電気、通信、交通などの重要インフラを目標にするのだろうか。ユーゴ空爆では、最後には目標がなくなるほど徹底的に重要インフラを破壊した挙句、空爆で決定的な成果を得られないNATOと戦禍で疲弊したセルビアの両者痛み分けのような恰好で二か月半後に停戦した。今回は、財政難のため、巡航ミサイルによる2-3日の爆撃にとどまるようだ。大使館を攻撃された腹いせに巡航ミサイルを何十発かアルカイダのテントに撃ち込んだクリントン大統領と同じように、オバマ大統領も何十発かミサイルを空の兵舎に撃ち込んで終わりということになるのではないか。
何もしなければ無能の烙印を押され、攻撃しようにも金がない。窮地に陥っているのはアサド大統領ではなくオバマ大統領だ。
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