2013年8月24日土曜日

徴用工判決の背景

2013年7月10日ソウル高裁は、戦時中、日本の軍需工場に動員された韓国人の元徴用工4人の損害賠償請求を認め、新日鉄住金に1人あたり1億ウォン(約890万円)を支払うよう同社に命じた。  原告の一部は日本でも訴訟を起こしているが、日本の最高裁では1965年の日韓請求権協定で個人の請求権は消滅し、行使できなくなったとの判断が確定している。一方韓国では2012年5月に、大法院(最高裁)が「個人請求権は消えていない」との判断を示している。  この問題の核心は、日韓基本条約や付属の日韓請求権協定にあるのではない。いくら日本が条約や協定を盾にとって、個人請求権は消滅しているといっても、全く無意味である。 そもそも韓国大法院が「個人請求権は消えていない」と判断した理由は、 ① 日本の植民地支配が非合法であり、強制動員は違法。 ② 日韓請求権協定は、日韓の債権債務に対するものであり、植民地支配による違法な強制労働対する個人の賠償請求権は消えていない。 (菊池 勇次「【韓国】 戦時徴用工個人の賠償請求権に関する韓国大法院判決」『外国の立法』国立国会図書館調査及び立法考査局(2012.7))。 つまり、昨年5月の韓国大法院の判決は、日韓請求権協定とは全く無関係に、日本の植民地支配に対する個人賠償請求権を認めたことになる。今回のソウル高裁の判決は、大法院の判決に沿って下されたものである。日本の支援組織である「日鉄元徴用工裁判を支援する会」事務局長の山本直好氏が、「ソウル高等法院判決の意義の第1は、強制連行強制労働を「反人道的不法行為」と認定し、1965年の日韓請求権協定では不法行為による個人の損害賠償請求権は消滅していないと判断したことだ」(メルマガ『Weekly MDS』 2013年08月02日発行 1291号)と、判決を高く評価していることからも明らかなように徴用工問題を慰安婦問題と同じように人道問題として取り上げているのである。慰安婦問題も徴用工問題もいつの間にか論点が強制性から人道問題にすり替えられている。いくら日本政府が強制性はない、条約で解決済みといっても、サッカーをやっていたらいつの間にかラグビーに代わっていたようなもので、もはやラグビーでは日本の完敗である。  いったいなぜゲームのルールが変わったのか。いくつか理由が考えられるが、些末な話からすれば、冷戦の崩壊で日本の左翼が目標を失い、人道問題として日本の植民地問題を韓国や国連で扇動した。あるいは東日本大震災による日本の国力の相対的低下、韓国の相対的上昇を背景に、今こそ植民地支配の恨み晴らさでおくものかとばかりに攻勢に出ているのかもしれない。しかし、これらの理由以上に深刻な社会的背景があるように思われる。それは在外韓国人問題である。 2月のパククネ大統領の就任演説を聞いて驚いたことがある。それは冒頭で「700万人の海外同胞の皆さん」といったことである。まさかと思って調べてみると、2009年時点で在外韓国人は683万人(米国243万人、日本90万人など)だ。間違いではなかった。2012年の韓国の人口は約5000万人。全人口の約14%が海外で暮らしている。この数字は、出稼ぎ労働が社会問題になっているフィリピンとほぼ同じである。ただフィリピン人の多くが出稼ぎでいずれ帰国するのとは異なり、在外韓国人の多くは在日、在米のように永住者が多く、事態はフィリピンより深刻である。ちなみに日本は、2,009年の統計によると人口約1億2800万人で在外邦人は113万人、全人口の1パーセントにも満たない。 他国のことながら、これでは国家は発展するどころか崩壊するのではないかと心配になる。反日であれ何であれ民族感情を扇動しなければ、次々と国民が流失して韓国は国家を維持できなくなるのではないか。追い打ちをかけるように日本以上に少子化が進んでいる。国民流出は80年代から進み、今ではロサンゼルスのウエスト・アベニューの通りの両側はソウルと見まごうばかりにハングルであふれている。在米韓国人には祖国を捨てたことへの負い目でもあるのか、とにかく反日運動や慰安婦問題を盛り上げて祖国と連帯し、贖罪しようとしているかのようである。 こうした韓国の社会情勢を考えれば、徴用工の問題が条約や協定の問題でないことがわかるはずだ。日本政府が協定で請求権は完全解決済みと突き放しても、ましてやいまさら請求権協定の第三条第1項の紛争調停のための仲裁委員会を設置して済む問題ではない。韓国が今日本にせまっているのは、歴史認識問題ではなく、植民地支配問題である。謝罪でも償い金でもなく、日本が一度は韓国の植民地にならない限り、彼らの怨念は晴れないだろう。

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