2009年5月30日土曜日

北朝鮮の核兵器阻止は不可能

 5月25日北朝鮮はアメリカのメモリアル・デーに合わせるかのように二度目の核実験を強行した。今日(5月30日)、国連の制裁決議を牽制するかのように、金正日政権は再度ミサイル実験を実施する兆候を見せ始めた。まさに北朝鮮と国際社会とのチキン・ゲームが始まった。ところで北朝鮮は誰とチキン・ゲームをしているのだろうか。
 北朝鮮は核兵器を振り回しながら、一体何を求めているのだろうか。アメリカとの平和条約なのか。アメリカとの平和条約を締結し、金正日体制維持の保証をとりつけることだとよく言われる。では、それに対してアメリカはどのような政策を望んでいるのだろうか。何よりも北の核兵器の放棄であるというのが通説である。では、ここで冷静に考えてみよう。北朝鮮が核兵器を保有することでアメリカの国益にどのような影響があるのだろうか。実は、直接的な影響はほとんどない。それこそが、日米の間で北朝鮮をめぐって国益の非対称性を生み、日米同盟が揺るぎかねない状況を創り出しているのである。
 北朝鮮が核兵器を保有しても、米本土に届く長距離ミサイルがなければアメリカにとって直接的な脅威とはならない。では、なぜアメリカが北朝鮮の核兵器保有に反対するのか。それはNPT体制すなわち5大国による核独占体制が崩壊し、核拡散が始まるからというのが次の理由。しかし、NPT体制の崩壊というのならアメリカだけでなく、中国、ロシア、そして英、仏も少なくともアメリカと同じ程に反対してもよさそうだが、中国、ロシアも宥和的であり、英、仏に至っては国連安保理以外では関心すら寄せていないように思える。仮に北朝鮮の核兵器を廃棄させたとしても、NPT体制はインド、パキスタンそしてイスラエルがすでに保有している現状では、破綻したに等しい。アメリカにとって、北朝鮮の核保有は望ましくはないが、米国の国益に直接影響を与える問題でないことがわかる。だからこそ1995年の第1次朝鮮半島危機以来、米国は紆余曲折はあるものの北朝鮮の核保有には宥和的だったのだ。結局のところアメリカは北朝鮮が仮に核を保有したとしても米中によって統制できるとたかをくくっているのではないだろうか。
 他方、北朝鮮は核兵器を保有する限り、その軍事的影響力を政治的影響力に変えることができる。冷戦時代北朝鮮はその地理的位置からロシアや中国にとって米国が大陸へ進出する際の防波堤としての役割を負っていた。しかし、冷戦の終焉とともに、地政学的な価値は暴落してしまった。もはや地政学的価値を利用して政治的影響力に変換することができなくなったのである。北朝鮮はせかいでも最貧国の一つになってしまった。金正日政権が体制を記事しながら韓国に伍して発展するために残された手段はただ一つ、軍事力を政治力に変換して生き残りを図る以外にない。しかし、湾岸戦争で明らかになったように旧式の大規模軍隊では脱近代戦では全く戦えない。だからといって北朝鮮にはRMA型の近代軍を整備する経済力は全くない。残された道は経済的、合理的な方法は核兵器開発だけである。北朝鮮の国家戦略は正しかった。
 経済力も軍事力も劣る発展途上国が手っとり早く政治力を獲得する唯一の方法は核兵器である。北朝鮮にはそのモデルがあった。それは中国である。中国が核兵器開発を目指した50年代末から60年代にかけて中国は今の北朝鮮なみに貧しい発展途上国でしかなかった。毛沢東は経済的発展を後回しにしてでも核開発を優先し、そして1964年ついに核保有国となった。核兵器保有後、中国は核兵器を政治力に変えて、核大国として国際社会でその政治力を遺憾なく発揮したのである。やがて中国は国連に常任理事国として復帰し、米中は国交を回復し、それにあわせて日本も日中国交回復に踏み切った。その後中国は国内混乱で経済発展がおくれたものの、90年代から一気に経済発展を加速させ、今ではGDP世界第3位の経済大国そして核保有国として君臨している。明らかに北朝鮮は中国をモデルにしている。だから北朝鮮にとっては核兵器は絶対に手放せない。国際社会は核保有国としての北朝鮮に否応なく向き合わざるを得ない。
 こうしてみると、軍事力で北朝鮮を崩壊させる以外にもははやいかなる手段を講じても北に核兵器を放棄させることはできない。また核開発を止めることもできない。北は絶対に核兵器を手放さない。日本はこの東アジアにおける核化の現状を前提にして、これいかに対処すべきかを考えなければならない。具体的には、以前ブログにも書いたように日本は「脱兵器化核武装」戦略をとり、それを政治的梃子に少なくとも東アジアの脱核兵器化による核軍縮を実現させていかなければならない。

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