2014年10月4日土曜日
憲法九条の想定外の「国際紛争」
安倍政権の集団的自衛権行使容認の閣議決定をめぐって賛否両論が激しく闘わされている。憲法九条第一項は「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めている。これまで「国際紛争を解決する手段として」の「武力による威嚇又は武力の行使」については夥しいほどの数の著作が出版され議論が繰り返されてきた。にも関わらず元法制局長官阪田雅裕氏によれば(半田滋『日本は戦争をするのか』(岩波新書)62頁)「国際紛争」についてこれまで政府で議論になったことはないという。この国際紛争の解釈に一石を投じたのが、安保法制懇の北岡伸一座長代理である。彼は、「国際紛争」には第三国における紛争」たとえばアフガニスタン、イラクのような第三国での紛争は含まれないとの見解を明らかにしている(同上書、61頁)。たしかに「国際紛争」の由来を調べると北岡氏の主張は正しい。
そもそもマッカーサー・ノートでも、GHQ原案でも「他国との紛争」を解決する手段として「武力による威嚇又は武力の行使」を放棄したのである。つまり憲法九条はアフガニスタンでのタリバン、イラクやイエメンなどでのアルカイダそしてシリアやイラクでのイスラム国など他国内での非国家主体との紛争など想定していなかった。現在「国際紛争」として問題となっているのは、「他国との紛争」ではなく「他国内における非国家主体との紛争」である。
「他国との紛争」に代わって「国際紛争」という文言が使用されたのは、帝国憲法改正案委員会小委員会第4回(1946年7月29日)以降である(『帝国憲法改正案委員会小委員会速記録』(現代史出版、2005年))。冒頭芦田委員長が次のように発言した。「又、第2項の『他国との間の紛争の解決の手段……』という表現はあまりにもだらだらしていますので、この文章も『国際紛争を解決する手段』と修正するという提案もありました」との記述がある(福永文夫独協大学教授のご教示に感謝します)。つまり憲法九条が想定している「国際紛争」とは日本と「他国との紛争」であって、「他国内における非国家主体との紛争」ではない。
そもそも憲法制定時に「他国内における非国家主体との紛争」など全く想定していなかったはずだ。憲法九条の目的はあくまでも日本を非武装化し、二度と「他国と紛争」ができないようにすることだったからである。しかるに現在の「国際紛争」は「他国との紛争」よりもむしろ憲法九条の想定外の「他国内における非国家主体との紛争」が主流になりつつある。つまり第三国における武力行使は憲法上禁止されていないという北岡氏の主張は論理的には正しいことになる。だとすれば憲法九条が想定していない国際紛争に武力の行使は許されるのだろうか。
現在アメリカはイスラム国に対する攻撃を自衛権で正当化している。はたして自衛権で正当化できるかどうかは微妙だが、日本がアメリカに協力を要請されれば明らかに集団的自衛権の発動となる。ただし憲法九条の想定外の「国際紛争」であるために、集団的自衛権の発動がはたして憲法違反となるかどうかは微妙である。あるいは集団的自衛権の発動ではなく日本が推進している人間の安全保障の「保護する責任」、あるいは戦時における婦女子の人権擁護の人道目的でイスラム国への武力行使をアメリカあるいは国連から要請されれば、それを憲法違反として日本政府は拒否できるだろうか。悩ましい問題ではあるが、今後こうした憲法九条の想定外の国際紛争が頻発するだろう。
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