2014年10月29日水曜日
大国心理の崩壊と日本外交
明治維新以来、一貫して日本人はアジア随一の大国としての心理を抱いていた。しかし、2010年代に入りその心理はすでに過去のものとなった。今や日本に代わってアジアの大国が中国であると、中国人はもとより日本人のほとんど全員が思っている。今日本は、国民の心理では、アジアで二番目の国家になった。それだけではない、韓国人でさえ、日本人にはITとグローバル化では勝っていると思っている。中国、韓国ではついに日本に勝ったという心理が国民の間に横溢しているのだろう。
今このような駄文を書いている筆者を含めほとんどすべての日本人がこれまで、意識のあるなしにかかわらず、日本はアジア随一の大国との心理を抱いていたことだろう。だからこそ慰安婦問題に観られるように、日本人の間に、中国や韓国を弱者とみなし彼らに寄り添う心理的余裕が生まれたのである。
慰安婦問題がにわかに大きな問題になったのが、日本のバブル期であったことは決して偶然ではない。当時日本の大国意識は絶頂期を迎えた時代であった。将来はアメリカと日本の共同覇権、アメリッポンの時代が来ると本気で信じられていた時代だった。他方、中国は依然として発展途上国の域を出ず、韓国もオリンピックを開催するだけの国力を回復したものの、日本の経済力とは比較にもならなかった。この日本と中韓の経済力の差が日本人に心理的余裕を生み、「良心的日本人」に中韓の慰安婦に寄り添うことで自らの良心の証としたいとの思いがめばえたのだろう。
慰安婦問題での誤報を朝日新聞が取り消したのが今年2014年であったことは決して偶然ではない。朝日新聞が日本政府に厳しく、他方中韓に寄り添うような報道をしてきたことは、まさに日本人の大国心理を無意識の前提にしていたからである。その前提が崩れた以上、もはや朝日新聞がよって立つ弱者への思いやりという倫理的優位性も失われてしまった。また日本人も中韓からの非難に鷹揚に構えている心理的余裕を失った。朝日新聞へのバッシングは、まさに日本が大国の座から滑り落ちたことへの日本人のいらだちである。またいわゆる在特会に集まる人々は、まさに中韓の弱者よりも日本人の方がより弱者に、劣位に置かれているとの思いからヘイトスピーチを繰り返すのだろう。
日本はもはやアジア随一の大国ではない。この現状をどう心理的に受け止めてよいのか、だれも答えを見いだせない。安倍政権や自民党は「強い日本」を取り戻すとして、経済、軍事に力を注いでいる。しかし、どうあがいても中国を追い抜くことはできない。他方いわゆる平和主義者は憲法九条にノーベル賞を授章させる運動で何とか平和大国としての心理を得たいと考えている。しかし、不思議なことになぜ憲法九条がノーベル平和賞に値するのか、だれも論理だって説明できない。右も左も、だれも日本がアジアで二番目の国なったことを受け止められないでいる。
日本が置かれている現状は、添谷芳秀が主張するようなミドルパワーではない。まさにアジアでの第二位国家なのである。心理的余裕を失った日本人は今、原発反対、TPP反対の現代の鎖国政策をとるか、あるいは「開国」をして再度アジアの大国を目指すか、まさに正念場である。
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