2014年10月4日土曜日

映画ジャージーボーイズを観た

クリント・イーストウッド監督の『ジャージーボーイズ』を観た。ニューヨークの摩天楼を遠景に、後のジャージーボーイズのリーダーとなるトミー・デビートが落語の地語りのように観客に物語の発端を説明する。そして軽やかな足取りで歩いていく先は散髪屋だ。中に入るとゴッドファーザーのオマージュなのか、16歳のころの主人公フランキー・ヴァリが親方に代わって地元のマフィアの顔役ジブ・デカルロの髭を剃るシーンだ。驚くことにデカルロを演じているのはクリストファー・ウォーケンだ。このシーンを見ただけでアメリカのベビーブーマー世代はフランキー・ヴァリの大ヒット曲「君の瞳に恋している」のメロディーが頭の中に鳴り響いたことだろう。イーストウッドの配役の妙だ。そうクリストファー・ウォーケンはアカデミー助演男優賞を受賞した1978年の「ディアハンター」の中で「君の瞳に恋している」を熱唱していたのだ。 ロバート・デ・ニーロ主演の「ディアハンター」はベトナム戦争の過酷な体験で心身ともに傷ついた三人の帰還兵の友情を描いた青春映画(決して戦争映画ではない)で、バックグラウンドミュージックで流れるギターの名曲「カバティーナ」とともに「君に瞳に恋している」は時代を象徴する音楽である。クリストファー・ウォーケンの結婚式のダンス音楽として、また酒場でデ・ニーロやジョン・カザールらが酒をあおりながら熱唱するシーンで使われていた。団塊の世代はクリストファー・ウォーケンが登場するだけで一気に1960年代の青春時代に引き戻される。 映画はほぼミュージカルの脚本通りに進行する。違うのは冒頭でトミーやフランキーが窃盗などの悪さをしていた若い時代を付け加えたことだろうか。軍隊に入るか、犯罪に手を染めるか、有名になるか、貧乏から抜け出すには、それ以外にないというトミートの言葉が彼らがとにかく売れることに必死だった動機を説明している。また演出もミュージカル通りだ。酒場のネオンサインが壊れてOUR SONSとなっていたのが、故障が直るとFOUR SEASONSになり、それがフォーシーズンズの名前の由来となったというシーン。またエドサリバンショーに出演するシーンで、ミュージカルや映画のポスターになっている客席を背景にフォーシーズンズがきめのポーズを彼らの背後から写し取ったシーンなど、ほぼミュージカルの演出通りだ。とはいえ監督がイーストウッドならではのシーンがあった。ホテルの部屋にあったテレビにイーストウッドが出演したテレビ番組ローハイドが映し出され、若き頃のイーストウッドが映っていた。そしてラストシーンは出演者全員が登場し踊る。ミュージカルのラストと同じで、映画「蒲田行進曲」のラストを思い出した。  栄光と挫折そして復活という青春映画の王道を行くような物語である。ストーリーが単純なだけに音楽の役割は大きい。「シェリー」、「恋はヤセがまん」、「恋のハリキリ・ボーイ」そして「君の瞳に恋している」などアフレコではなく同録の歌唱シーンは緊張感あふれ圧巻である。団塊の世代なら音楽だけで、青春時代を思い出して涙がこぼれる。 私が初めてニューヨークでミュージカル「ジャージーボーイズ」を観たのは数年前のことである。以来、ニューヨークで4回、ロンドンで1回観た。ニューヨークの観客の多くはベビーブーマー世代の観光客だ。知っている曲がかかるとみんなが口ずさむ。初めて部隊を観たときは隣に座っていた60半ばの婆さんは感極まって涙を流しながら「君の瞳に恋している」を歌っていた。公民権運動、ベトナム戦争など激動の60年代を経験したアメリカ人にとってビートルズよりフォーシーズンズの方が身近なのかもしれない。それは昭和歌謡にノスタルジーを感じる日本人と相通ずるものがある。 それにしても監督イーストウッドの制作意欲には驚くばかりだ。音楽の効果的な使い方にも感嘆させられる。そして個人的には、彼が他の作品でも多用しているシーン、街道沿いや場末のアメリカン・レストランのシーンが好きだ。そこには必ずと言っていいほど、円筒形のガラスのケースに陳列されたまずそうなアメリカのパイやケーキが映し出されている。まさにアメリカを象徴する画だ。

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