2012年7月27日金曜日

オスプレイ問題を考える

オスプレイ問題で世情は喧しい限りである。問題の焦点が錯綜して、今では単にオスプレイ配備の問題にとどまらず、反原発運動のように反政府運動の様相まで呈し始めている。複雑に絡まりあったこの問題を整理すると、いくつの側面があることがわかる。 第1は技術的問題。まずは他の航空機よりも墜落しやすいかどうかである。これについては、産経新聞が以下のように伝えている。オスプレイには海兵隊用のMV22と空軍用のCV22がある。「両機の機体は9割方は同じだが、運用はMV22が人員・物資輸送、CV22は特殊作戦という大きな違いがある。フロリダ州での事故後にまとめた10万飛行 時間あたりの事故件数を示す「事故率」はCV22で13・47。一方、MV22は1・93にとどまり、海兵隊所属のヘリを含む航空機の平均事故率2・45 より低い」。オスプレイの見た目から、非常に不安定な印象を受ける航空機ではあるが、この数字を見る限り、CH-46ヘリコとさほど変わらない。ただし、海兵隊が事故隠しをしているとの関係者の証言もあり、数字の信頼性に問題なしとはしない。 またエンジン停止時に無事着陸できるオートローテション機能があるかどうかの問題もある。実際に欠如しているようだ。ヘリコプターにしては回転翼がCH-46に比較しても小さく、通常の航空機にしては水平翼が小さいためにエンジンが停止した場合には降下速度は早い。ましてやヘリコプター・モードから固定翼モードに移行するエンジンが斜めの状態の時、つまり離着陸態勢時で高度が低い状況にある時には素人が考えても墜落しやすいと思われる。 いずれにせよ技術的問題は、日本側の調査チームによって、場合によっては政府とは別の第三者の調査チームによってあきらかにする必要があるのではないか。 第2は、法的問題すなわち日米安全保障条約や地位協定の問題である。日本は米国に対し、「我が国の領域内にある米軍の装備における重要な変更(核弾頭及び中・長距離ミサイルの持込み並びにそれらの基地の建設をいう。)」があった場合には事前に協議することになっている。しかし、今回は単なる装備の更新であり、事前協議の対象にはなっていない。またオスプレイの訓練についても日米地位協定によって日本の航空法の適用外であり、日本側がオスプレイの訓練を禁止することはできない。つまり日本にはオスプレイの配備、訓練を差し止める法的手段はないということである。 このことが第3の安全保障上の問題をうむ。一体全体、日本は独立主権国家なのかという疑問である。米国の言いなりになって、日本は何もできないのではないか、これではアメリカの占領下におかれているのとかわらないではないかという、ナショナリズムに基づく反米感情である。これは、突き詰めれば、日本の安全保障をどのように考えるかという問題になる。つまりこれまで通り日米安全保障をわが国の安全保障の基盤とするのか。あるいは日米安全保障条約を廃棄して軍事的に対米独立を果たし、武装もしくは非武装中立の安全保障政策をとるかという問題である。  そしてこの安全保障上の問題を考える上で、第4の問題が浮上する。それは現在の安全保障環境をどのように考えるか、すなわち中国に対しどのような戦略、戦術をとるかという問題である。 中国が海洋進出を強めている現状で、また尖閣奪還どころか中国国立国防大学戦略調査研究所のツジン・イナン所長のように一部では琉球回収を主張するようになった中国に対し、日米同盟に基づいて対処しようとすれば、オスプレイを配備して、対中国への抑止力を強化するのが最も現実的なシナリオである。オスプレイというこれまでにない兵器の配備によって中国は、新たな戦略、戦術の練り直しが求められる。中国が十分な対応をとることができるようになるまでは、オスプレイは対中抑止力として機能するだろう。その証拠に中国はオスプレイの配備に不快感を示している。  対中戦略の問題は、第5の普天間問題と連動し、まさに政治問題化している。そもそもオスプレイの配備問題は普天間基地の恒久化を懸念する沖縄の問題であった。たしかに2003年6月にCH53Eの大型ヘリコプター墜落事故が起きている。その記憶がまだ消え去らぬ内に、周りを住宅街で取り囲んだ普天間基地に事故が多いと噂されているオスプレイが配備されるとなると、地元の不安は高まるのは当然であろう。オスプレイの配備を見越した上で計画されていた名護市辺野古への基地移設計画が鳩山内閣で頓挫したために、オスプレイ問題は単に普天間への配備反対だけではなく、米軍基地そのものの基地撤去要求に拡大する様相を見せている。さらに岩国市にも飛び火し、ここでも反基地闘争に火がついた。 加えて全国的な広がりを見せている反原発運動という名の反政府運動(脱原発の集会の呼びかけ人になった大江健三郎ははっきりと野田内閣の打倒をよびかけていた)と連動して、オスプレイ配備反対運動は野田政権打倒まさにアジサイ革命の様相を見せ始めている。 さてオスプレイ問題のおとしどころだが、野田首相は案外タカをくくっているかもしれない。パンとサーカスの愚民政策が存分に発揮できるからである。消費税問題はあるものの今のところ経済は安定し、パンはなんとかある。あとはオリンピックという見せ物で国民大衆の関心をオスプレイ問題や原発問題からそらすことができる。マスコミは間違ってもナデシコ・ジャパンをさしおいてオスプレイ配備問題を一面でとりあげることはないだろう。国民の本気度はこの夏に試される。

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