2010年1月29日金曜日

武器輸出三原則の緩和を

 2010年1月12日、北沢俊美防衛相が日本防衛装備工業会主催の会合で、武器輸出の原則禁止を定めた政府の「武器輸出三原則」について「基本的な考え方を見直すこともあってしかるべきだ」と述べた。連立を組む社民党の福嶋党首に配慮したのだろう、鳩山首相は直ちに軽率な発言だとして北沢防衛大臣を批判した。
 武器輸出三原則の見直しは防衛省の長年の目標であり、麻生政権下では「安全保障と防衛力に関する懇談会」が昨年8月に三原則の緩和を提言している。
 防衛省が武器輸出三原則の緩和を求める理由は大きく分けて三つある。第1に武器購入価格の高騰。武器輸出ができないために自衛隊しか購入先がなく、少量生産で兵器価格が高騰する。第2に他国との共同開発が困難なために技術交流ができず「技術鎖国」化してしまう。第3に日米間の技術を通じた同盟関係の強化が困難である。
 私は、武器輸出三原則は少なくとも「武器」について再定義した上で、下記の佐藤三原則まで緩和すべきと考える。
 ところで武器輸出三原則には、あえたて言えば2種類ある。
 第1は1967年の佐藤栄作首相の三原則である。それは、以下のような国・地域に「武器」の輸出を認めないこととした。
共産圏諸国向けの場合
国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
③国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
 第2は、1976年に佐藤三原則を拡大した三木武夫首相の修正版三原則である。同政策では、三原則対象地域については「武器」の輸出を認めないとした上で、次のような拡大修正が加えられた。
➀三原則対象地域以外の地域については憲法及び外国為替法及び外国貿易管理法の精神にのっとり、武器の輸出を慎む。
②武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱う。
 現在武器輸出三原則とは、この佐藤三原則より厳しい三木三原則をいう。
 では三木三原則が厳格に遵守されているかといえば、必ずしもそうではない。例外規定が設けられている。その典型が米国に対する技術供与である。1983年の中曽根内閣時代に、「日米安全保障条約の観点から米軍向けの武器技術供与を緩和することを武器輸出三原則の例外とする」との修正が加えられた。
 これだけではない個々の兵器についても時代に応じて例外扱いとされ、輸出対象からはずされた兵器がある。例えば1991年輸出貿易管理令では、地雷探知機や対人地雷除去機は例外扱いとされている。これは地雷被害国に本来なら武器にあたるこうした機器を供与するために、例外扱いせざるを得なかったからである。また2006年には「軍艦」に相当する海上保安庁の巡視船がインドネシアにODAの一貫として例外扱いで輸出された。このように政治的状況によって武器輸出三原則はこれまでも比較的弾力的に運用されてきた。
 こうした例外規定が設けられた背景には政治的理由もあるが、何よりもRMA(軍事革命)と呼ばれるような兵器技術の著しい進歩がある。
 そもそも武器輸出三原則の最大の問題点は「武器」の定義が曖昧なことにある。武器輸出三原則では武器をこう定義している。「軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの、本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する護衛艦戦闘機戦車のようなもの」をいい、具体的には輸出貿易管理令の第1項にあげられているものを指す。
 この定義はあまりに一般的かつ古典的でコンピュータを中核技術とする現在の武器には必ずしもあてはまらない。
 そもそも「武器」は破壊体、発射体、運搬体そして運用体の四つの部分からなるシステムである。たとえば戦闘機を例にとってみよう。破壊体とはたとえば戦闘機に搭載されている機関砲の弾丸である。弾丸が爆発して相手機を破壊する。発射体とは弾丸を発射する機関砲である。運搬体とは、その機関砲を搭載する戦闘機である。そして運用体とは戦闘機を運用する地上の管制誘導システムである。こうした四つの部分からなるシステムが合体して一つの兵器体系を形成し、戦闘の用に供されるのである。
 この四つの部分のうち、厳密には破壊体と発射体だけが「そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊」をする用に供されるのであって、他の運搬体と運用体は破壊とは直接関係はない。防衛省や日本防衛装備工業会が緩和を求めているのは、専ら運搬体と運用体の技術供与や部品の輸出である。
 実際、運搬体はこれまでなら、「本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する護衛艦戦闘機戦車のようなもの」という定義にあてはまっていたかもしれない。しかし、最近の運搬体は、必ずしも「本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する」とは限らない。
 その典型的な例が、「テクニカ」である。これは主にトヨタのピックアップ・トラックやランド・クルーザー(運搬体)を改良して荷台に機関銃やロケット・ランチャー(破壊体と発射体)をとりつけた戦闘車輛である。イラン・イラク戦争でイラン軍がイラク軍の戦車に対抗して導入したり、またチャドやアンゴラなどアフリカ各地の内戦で盛んに利用された。またヤマハの農薬撒布用の無人ヘリコプターも偵察機に転用可能で、自衛隊がイラクのサマワに持っていった。他国から売却の要請があったというが、これも武器輸出三原則に抵触したために売却できなかったという。
 専ら民生用に開発された技術が組み合わされて軍事に転用されるという例はこれらに限らない。運用体部分では、ソニーのプレステ3を大量に使用して簡便な並列型スーパーコンピュータとして米軍が利用している。またプレステ3のCPUはグラフィック処理に優れているためにミサイルの誘導部分の目標の形状認識に用いられているという。さらにソニーのビデオカメラに用いられている光学素子は精密誘導弾の誘導部に用いられている。 
 武器輸出三原則が制定された60年代や70年代とは異なり兵器は著しい進歩をとげている。昔は軍用技術が民生技術に応用されるスピンオフが主流だったが、今では逆に民生技術が軍事技術に転用されるスピンオン技術が主流となっている。したがって武器輸出三原則で技術を規制してしまうと民生技術、部品、製品にも大きな影響が出る。たとえば国外持ち出しが貿易管理例によって規制されているプレステ3やラップトップコンピュータなどがその典型である。
 このように武器輸出三原則で想定していた「武器」は、RMA時代の現在その様相を一変させている。破壊体や発射体の進歩は事実上とまってしまったが、他方運搬体とりわけコンピュータを基幹技術とする運用体の進歩は著しい。日本がこの部分で他国との技術交流や共同開発ができなければ、日本の兵器の「ガラパゴス」化を起こしかねない。それは事実上絶滅への一里塚である。だからこそ、武器輸出三原則の緩和が求められる。  
 

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