鳩山首相には本当に安全保障や軍事に関する知識があるのだろうか。彼の経歴を見る限り安全保障には全くの素人と考えた方がよさそうだ。そもそも抑止という概念を知っているのだろうか。あるいは勢力均衡という概念を知っているのだろうか。こうした安全保障の基本概念を踏まえた上で東アジア共同体のような多国間協調体制について語っているのなら、まだ安心だ。しかし、どうも心もとない。
鳩山首相のアドバイザーとみなされている寺島実郎氏も安全保障の専門家とは言い難い。なにしろ私と同じ「バカダ大学」の出身だから、それほど頭脳明晰とも思えない。またもう一人のアドバイザーがいるようだ。昨日(2009年11月16日)の新聞の「首相動静」を見ると軍事アナリストの小川和久氏が首相を訪問している。普天間問題についてなんらかのアドバイスをしたのだろうか。彼は少年自衛官出身で同志社大学の神学部を卒業後週刊誌のライターを経験した後、独立して軍事アナリストを名乗っている。経歴を見る限り、軍事のゼネラリストではあるがスペシャリストとは言い難い。二人のアドバイザーを見る限り、どうも防衛問題の専門家や研究者が鳩山首相のまわりにはいないようだ。安全保障政策がブレるのもしかたがないのかもしれない。
寺島氏の安全保障に対する基本的な考え方は、冷戦後の日米同盟の再々定義ということであろう。日米同盟は1996年にその目的を「アジア・太平洋の平和と安定」と定義し直した。実は、それ以前の92年に宮沢首相とブッシュ(父)大統領はグローバルな役割を日米同盟が担うということを共同声明で明らかにしていた。つまり、冷戦後の日米同盟の役割については定義の見直しが何度か企てられてきたのである。寺島実郎の提案もその延長線上にある私案の一つである。要するに21世紀の安全保障環境にあわせて、普天間基地問題も全面的に見直すべきだという提案である。恐らく鳩山首相の普天間問題の全面的見直し論は寺島氏の受け売りではないか。
たしかに寺島氏の論には納得できる部分も多い。寺島氏の言うように、北朝鮮の核はたしかに脅威ではあるが米中の圧力での解決は可能である。また相互依存関係が進む現在中国を仮想敵とするのは時代錯誤である。しかし、寺島氏や鳩山首相の安全保障政策の最大の問題は日本の安全保障政策をどのようにするかが明確になっていない点である。
この問題を考える際にリトマス試験紙となるのは、自衛隊は合憲かそして集団的自衛権を認めるか否かである。二人とも自衛隊は認めているとは思うが、集団的自衛権は容認していないようだ(鳩山首相の発言はブレるので明確なところは不明ではあるが)。集団的自衛権の政府解釈を変更しない限り、現実には自衛隊のPKOや国際治安維持部隊への参加も、さらに日米間の共同作戦行動もできない。
仮に集団的自衛権を認めないというのであるなら、日本単独で安全保障体制を構築していく以外に方策はない。しかし、鳩山首相に日本独自の軍事力の構築を図る決意があるだろうか。
鳩山首相が安全保障で対等な関係を主張した時、恐らく対米独立派の右派の一部は快哉を叫んだことだろう。対米従属体制から脱して、対等な軍事関係に依拠した日米同盟の再定義は右派保守派の積年の願いであった。右派の諸君は、鳩山首相がこの願いを実現してくれるもの多いに期待したことだろう。
しかし、鳩山首相には、そこまでの見識と度胸はなかったようだ。また寺島氏もそこまでは深く踏み込んでは考えていないようだ。二人とも日米関係や日中関係の軸足を軍事から経済関係に移すことで、対米独立が達成できると安易に考えているのだろう。
安全保障の究極は結局力である。しかもその力は軍事力というハードパワーである。二人の希望はともかくも、残念ながら秩序の源泉は最終的には軍事力でしかない。その軍事力を効率的、効果的に使いこなしてこそ国際社会に平和と安定が訪れる。鳩山首相も寺島氏も安全保障のその要諦が理解できていないようだ。
鳩山首相の未熟で無能な安全保障外交が日本に災厄をもたらさないことを祈るばかりだ。
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