2013年6月11日火曜日

米中「同盟」に楔を

米中首脳会談で中国の帝国主義的性格が露わになった。それは、次の文言である。「太平洋には両国を受け入れる十分な空間がある」。言い換えるなら、現在の空間は不十分だということに他ならない。その背景には帝国主義、植民地主義の人口過剰、資源不足という問題意識があるのだろう。 我々日本人は、この空間概念には苦い思い出がある。日本の大陸進出のイデオローグである徳富蘇峰は『大日本膨張論』で「六畳の部屋に二人の同居を要するがごとき窮屈なる国土」(11ページ)と、当時の日本の人口に比して国土が狭いことを理由に大陸への進出は不可避と論じた。その結果が惨憺たる敗戦である 人口過剰のイデオロギーは日本固有のものではない。後発帝国主義国であったドイツ、イタリアも同じである。アメリカの国際政治学者ハンス・モゲンソーは、これらの国は、「空間に恵まれぬ国民」であり、もし「生活空間」を獲得できなければ「窒息」するほかなく、またもし原料の供給源を獲得できなければ「餓死」するほかない、とのイデオロギーでその膨張政策を正当化し、帝国主義的目標を偽装したと『国際政治』で論じている。日独伊に続くのは中国である。 これまでオバマ政権は中国と北朝鮮の核問題やサイバー戦争などをめぐって外交戦や低強度戦を戦ってきた。すでに米中は戦争状態にある。そのアメリカが首脳会談を中国に呼びかけたことは、中国に休戦を申し入れたに等しい。その意味で今回の首脳会談はアメリカが超大国の座から滑り落ちる分水嶺となった会談として歴史に残るだろう。 なぜアメリカが休戦を望んだのか、最大の理由は経済問題であろう。国防費の大幅な削減で将来的にはかつてのイギリスのように世界から軍事力を引かざるを得なくなる。その時まず間違いなく中東よりもアジアが先だ。今はアジア回帰を標榜しているが、それはこれまで中国が政権交代期に当たり、比較的安定していた中東よりも焦点を当てざるを得なかったからである。 しかし、シリア情勢やイランの核開発など中東情勢が次第に緊迫し始め、今後は再び中東に回帰することになるだろう。そのためには中国と協力してアジア太平洋の安定を確保する必要がある。かつては日米同盟こそアジア太平洋に不可欠と言われたが、今回の首脳会談でオバマは「米中関係は両国の繁栄と安全保障だけでなく、アジア太平洋と世界全体にとっても重要だ」と述べている。日米関係よりも米中関係が重視される時代になってきている。 振り返ってみるとオバマ政権になってから外交政策で見るべき成果は上がっていない。核兵器のない世界の演説で世界を熱狂させ、核兵器のない世界が実現する前にノーベル平和賞を授賞してしまった。ノーベル平和賞をとって歴史に名を残せたので十分と言わんばかりに外交に身が入らない。そこに中国が台頭し、なりふり構わぬ膨張政策を展開している。オバマ政権は防戦一方である。心理的にはアメリカはもはや負け戦を戦っているようだ。 その何よりの証拠が、尖閣問題である。アメリカは尖閣問題に巻き込まれるのを嫌がっている事自体、同盟国としての責任放棄である。尖閣諸島の施政権を日本に返還する決定を下した(日本にとっては当然だが)のはアメリカである。尖閣問題をめぐっては、決してアメリカは第三者ではない。また学界でもオフショアー・バランシングなる戦略論が学界で話題になり、それをゲイツ元国防長官がアメリカの次の大戦略などともてはやした。オフショア・バランシングは19世紀のイギリスの戦略の焼き直しに過ぎない。オフショア・バランシング論が議論されること自体、アメリカがすでにイギリスと同じ島国になっている証拠だ。 島国のアメリカにはトルーマン・ドクトリンに匹敵するような世界像を描ける指導者、学者がいない。仮にオバマ政権が世界像を描いたとして、もしそれがG2の米中共同覇権で太平洋分割なら、日本外交の最大の悪夢「朝海の悪夢」が正夢になる。その結果、日本は中国の属国になるか、歴史が繰り返され米中との対立に追い込まれるか。日本は米中関係に楔を打つ以外に生き残ることはできない。。

2013年6月9日日曜日

憲法改定に断固反対する

憲法の改正に断固反対する。とりわけ憲法96条の改正は百害あって一利なしだ。今、日本と中韓は思想戦の真っ最中である。中韓は閣僚の靖国参拝や橋本発言をとらえて、日本が戦後の民主主義の価値観を守らず戦前の軍国主義の価値観に戻ろうとしていると非難している。そのような時に、憲法改正の動きを見せれば、中韓に塩を送るようなものだ。知日派を除けばアメリカ人の多くも決して日本には味方しない。憲法を改正しなくても、集団的自衛権は政府解釈を変更すれば済むことだ。自衛隊の名前を国防軍に変えたところで自衛隊が急に強くなるわけではない。憲法改正は対米自主独立、自主防衛を夢見る一部の人々の自己満足に過ぎない。 知日派のジョンズ・ホプキンズ大学ケント・カルダー教授が2008年の『日米同盟の静かなる危機』で、ワシントンだけでなくアメリカ全体で日本の存在が希薄なっていることに警鐘を鳴らしていた。それから、すでに5年がたっている。ワシントンでは今や日本の姿は4月の桜祭りでしか見られない。安倍首相の訪米は地元のニュースにもならなかった。ましてや、ゴールデン・ウィークを利用して訪米した閣僚や議員のニュースは地元新聞でさえほとんど載らない。NHKやネットのニュースを見たり、日本の新聞を読んで彼らの訪米を知ることがほとんどだ。 その一方で中国や韓国の存在感は驚くほどだ。中国系、韓国系アメリカ人はもとより在米中国、韓国人は日系アメリカ人や在米日本人の数をはるかに凌駕している。中国人の人口の多さを物語るように、ワシントンでは中国の新聞販売機を街角のあちこちで見かける。アメリカのメディアの関心も中国や韓国に移りつつある。韓国の朴大統領の訪米やインタビューはCBSが全米放送した。だから中国や韓国が取り上げる反日ニュースは、アメリカでも即座にニュースになる。特にワシントン・ポストは昨秋以後、とりわけ安倍政権誕生以降、慰安婦問題や歴史認識で日本の右傾化を記事にしている。アメリカ・メディアが手ぐすね引いて待ち構えているところに、「飛んで火にいる夏の虫」になった橋本徹大阪市長が飛び込んでいった。まさに橋本炎上だ。 ためしにamzon usでcomfort women japanで検索を掛けてみてほしい。196件も出てくる。もっと絞り込んで comfort women sexual slavery in the japanese military during world war ii で検索を掛けてみても23件も出てくる。どれほど、慰安婦問題がアメリカで注目されてきたかがわかるだろう。いくら慰安婦の証拠はないと言っても、アメリカも日本やベトナムに慰安所を作ったではないかと言っても、アメリカ人には決して伝わらない。キリスト教文化圏の彼らには、落語の「明烏」や「品川心中」に描かれたような遊郭の文化はない。あるのは韓国や日本でもそうした文化を否定してきたキリスト教の人権概念だけだ。反論すればするほどかえって韓国や中国の反日宣伝に利用される。 ことは慰安婦問題だけではない。憲法改正を言えば歴史認識も疑われてしまう。安倍首相が侵略の定義はないと言っただけでも右傾化の証拠にされてしまう。こんな時に憲法改正を持ち出そうものなら、日米同盟に致命傷を与えかねない。日米同盟は「トモダチ作戦」で万全になったわけではない。それどころか、「トモダチ作戦」くらいしか日米同盟を結びつける理由がないと考えた方が良い。同盟は軍隊同士の結びつきだけで維持されているわけではない。もっと重要なのは日米両国が価値観を共有することである。そもそも日米同盟はイデオロギー同盟だった。小泉政権時代にはブッシュと自由民主主義の価値観を共有し同盟関係は安定していた。しかし、反米左派的民族主義の傾向が強かった鳩山政権はアメリカとの間で価値観に齟齬が生じ、対中戦略、対朝鮮半島戦略の土台である日米同盟に亀裂が入った。安倍政権は土台に入った亀裂をふさがなければならない。その安倍政権が憲法改正等反米右派的民族主義政策をとってどうするのだ。アメリカでは反米右派的民族主義を軍国主義という。それには、アメリカに日本が右傾化したと思われないよう、また中国や韓国に決して反日の口実を与えないよう、親米派安倍政権には慎重な政策運営が必要である。今憲法改正を提案する等、下策の下策である。