2012年10月3日水曜日
新しいメディアとシリア危機
今日(10月2日)ワシントンのアメリカ平和研究所(United States Institute Of Peace)で開かれた”Groundtruth:New Media, Technology and the Syria Crisis”を傍聴した。午前9時半から1時過ぎまで、三つのパネルが開かれた。要するにブログ、フェイスブックやユーチュブなど新しい情報伝達手段や精密な衛星画像などの技術がシリア危機でどのような役割を果たしタカ、その功罪議論する内容だった。結論は、役に立つが、部分的に拡大してとりあげられ、あるいは内容の真偽の確認が取れないといった問題があるとの穏当な結論であった。
議論の中で、今年8月にシリアで行方不明なったアメリカ人ジャーナリストAustine Tice の名前が出てきた。彼は、私が拘束されてしばらくたった13日ころに行方不明になっている。正式なビザを取らずにトルコ国境から越境して、ダマスカス郊外を取材してレバノンに脱出する予定だった。米国務省はタイスがシリア政府の拘束下にあるとの声明を行方不明直後から発表している。私と同様に秘密警察に拘束されていると思われる。彼が、その御どうしているのか、何の報道もなかったので気になってネットを調べると、まさにこれから処刑されるかのような彼らしき人物のビデオが見つかった。6日前にyuotubeに投稿されたらしく、昨日になってアメリカのメディアが取り上げ始めた。
しかし、これは一目見て偽物、作り物であることがわかる。アメリカでもほとんどの人が信じていない。米国務省は、タイスがシリア政府の拘束下にあることを発表している。
何がおかしいかと言えば、タイスを引き連れている集団がアフガニスタンやイラクで見かけるようなイスラム原理主義の服装だからである。仮に、イスラム原理集団だとすれば、反アサドのはずだからタイスは味方のはずである。それがなぜ彼を処刑しなければならないのか理解できない。そもそも近代化の進んだシリアに政府、反政府を問わず原理主義者グループはいない。おそらくはよく似た人物を使って作られたプロパガンダのビデオだろう。しかし、いったい誰がこんな手の込んだビデオを作ったのか。政府がタイスの誘拐を反政府勢力の仕業と見せかけるために作ったのか。仮に政府が作ったとするなら、全くお粗末極まりない。図らずも、今日のシンポで話題になった新しいメディアの信頼性の問題が問われる。
ところで今日のシンポのパネリストにアメリカに逃れてきた三人のシリア人が参加していた。その中の一人にまるでモデルのような若い女性がいた。おしゃれのセンスもよく、こんな美人がアメリカ人にもいるのだとおもっていたら、3か月前にアメリカに来たシリア人の元アレッポ大学の学生だった。シリアで反体制運動をして、何度か投獄されたためにトルコへ密出国したとのことである。いったい誰が彼女を支援しているのか、背後の事情は不明だ。残り二人はおそらく30代の男性で、一人はシリア軍の元将校とのことである。
さて彼らに共通していることがある。それは英語に堪能だということである。女性はまだ米国に暮らして3か月しかたっていなので英語がうまくないと言っていたが、流暢に堂々と英語で応答していた。男性二人は、全く問題なく英語を操っていた。ブログ、フェイスブックやユーチュブなど新しいメディアについて3時間以上にわたって議論していたが、それ以前に英語を使いこなすことのほうが先決、重要だというのが私の結論だ。国際世論―それは事実上アメリカの世論だが―を動かすには、新しいメディアであれ、旧いメディアであれ、いかに英語で発信するかである。アサド政権が苦境に陥るのは理解できる。
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