2010年8月8日日曜日

『さらば日米同盟』を読む

天木直人『さらば日米同盟!-平和国家日本を目指す最強の自主防衛政策』(講談社、2010年)

 要するにアメリカが確実に日本を助けてくれる保証などどこにもないから、憲法9条の平和主義の理念に基づいて対米従属外交を止め、専守防衛に徹する自衛隊の存在を認め、日米同盟を廃棄して東アジア集団安全保障体制を構築せよ、ということである。
 いろいろ問題はあるにせよ、大筋において賛成する。ただし、最も重要な結論部分を除いては、だ。
 国家の安全保障のあり方は、三つしかない。独歩主義(ユニラテラリズム)、二国間主義(バイラテラリズム)、多国間主義(マルチラテラリズム)である。日本は現在米国との外交を基軸する二国間主義をとっている。これを廃棄するなら、残された外交は、独歩主義の自主防衛外交か、たとえば国連やNATOのような多国間主義外交である。多国間主義にも厳密には、NATOのような、特定の敵を想定した脅威対処型の集団防衛体制と国連やOSCEのような集団内部の危機を管理する危機管理型の集団安全保障を体制がある。
 天木の結論は、日米同盟に代えて東アジアに集団安全保障体制を構築せよということである。
 はたして東アジア集団安全保障体制が具体的にどのようなものかを天木は詳らかには論じていない。詳細に検討すれば、たちまちの内にそれが不可能だということが明らかになるからである。
 第1に、東アジア集団安全保障体制の参加国はどの国か。米国、台湾、北朝鮮は入るのか。
 第2に、集団安全保障は武力制裁が前提になるが、憲法9条を持つ専守防衛の日本は武力制裁に参加できるのか。できないとするのなら、そもそも集団安全保障体制に参加する資格があるのか。
 第3に、核大国中国が「約束を破った」場合、他の国は武力制裁を科すことができるのか。集団安全保障の原理的問題である。
 1996年の安保の再定義で日米同盟は冷戦時代の排他的な二国間同盟から包括的な二国間同盟に変化してきた。その結果、日米同盟は脅威対処型の同盟から危機管理型の同盟へと変質した。その結果はたして北朝鮮や中国の脅威に有効に日米同盟が機能するかどうかの疑念が生まれ、また日本も米国のグローバルな危機管理に向けた役割を担わされるようになってきた。天木の問題は、日米安保の変質を無視して、旧来の脅威対処型の日米同盟を前提にして議論をすすめている事である。
天木のいう東アジア集団安全保障体制を構築するための最も現実的な政策は、日米同盟を廃棄することではなく、日米同盟の危機管理的機能をより充実させ、事実上の東アジア集団安全保障体制にしていくことである。その試みの一つが六ヶ国協議といえるだろう。

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