アフガン、パキスタンを訪問して気付いたことがある。それは中国、インドの両国への進出の著しさだ。中国、インドの発展途上国への進出はアフリカやアジアでも顕著だ。こうした発展途上国や最貧国への進出が両国の経済発展を支え、GDPを押し上げているのではないか。つまり両国は発展途上国の中の「先進国」といえるのではないか。
発展途上国とは、言葉を変えれば、工業時代に生きる国々のことである。中国もインドも今まさに、半世紀前の日本がそうであったように、工業時代の真っ只中にある。だから工業時代の象徴である自動車が爆発的に売れているのである。自動車をつくるには鉄が必要だ。自動車を走らせるにはガソリンが必要だ。また自動車を快適に走らせるには道路が必要だ。こうして中国もインドも今まさに国家の総力を挙げて自動車文明の実現を目指して、外国から手当たり次第に鉄鉱石、原油などを輸入しているのである。そして発展途上国向けの製品をつくって外貨を稼いでいるのである。
パキスタンで中国の家電メーカー「ハイアール」の広告をいたるところで見た。同社はかつて日本に進出していたが、今は影も形もない。安いだけでは日本の消費者には受けなかったのだろう。逆に発展途上国では、安さは、最も重要なポイントだ。日本の冷蔵庫のように、高度な機能を持った冷蔵庫はそもそも発展途上国には向かない。なぜならアフガニスタンでもパキスタンでも停電はしょっちゅう起きるからだ。マイコンで制御するような日本の冷蔵庫ではたちどころに故障してしまう。ただ物が冷えればいいという単機能に絞った安い冷蔵庫が実は発展途上国では最も必要なのだ。
またパキスタンではスズキのアルトがタクシーや大衆車として圧倒的なシェアを誇っている。安いこと、丈夫なことがなによりも評価されている。アルトは日本でいえば、丁度半世紀前に登場したダイハツのミゼットというところか。一般の人がなんとか手がとどく車という位置づけだ。技術的には初歩的で、何も評価するものはない。
アフガニスタンではまだ車を生産する技術はない。だから専ら車は輸入車だ。その輸入車の中で圧倒的な人気を誇っているのが、トヨタのカローラ、しかもディーゼル・エンジンで、マニュアル車だという。それはカブール市内を走ればすぐわかる。とにかく道路が悪い。雨が降ればすぐぬかるみ、水たまりができる。晴れの日はもうもうたる砂塵だ。絶対にこんな道路状況ではプリウスなどの精密高級車はたちまちのうちに故障してしまう。
中国もインドも今まさに日本が半世紀前にたどった道を今ものすごい勢いで追いかけている。だから丁度日本が60年代に高度経済成長を経験したように、今両国が高度経済成長を経験しているのである。日本が自動車生産で米国にキャッチアップしたのは1970年代である。半導体やウォークマンやテレビのような家電で世界に君臨したのは1980年代である。しかし、これらの技術は基本的には米国の後追いであった。丁度今の韓国が日本の後追いを猛追し、キャッチアップしているのと同じだ。
考えてみると、日本が経済不況に苦しんでいるのは、情報時代の新たな産業形態が見つからないからである。手本となるべき米国にも新たな産業はない。たしかにスズキのように発展途上国への技術移転で儲けることは可能だろう。だからといって例えばパナソニックがインドや中国向けに安い家電製品をつくったとして本当に発展するのだろうか。
情報時代の新たな社会のあり方が不明だから、日本は途方に暮れている。中国もインドも日米始め先進国の後追いをすればよい。しかし、日本の前にはどこの国もいない。横に欧米先進国が並走しているだけだ。アメリカも新たな社会の形態や新たな産業を創り出せないでいる。ちなみにアメリカは国内に貧困層という第三世界を抱え込んでいるので、この社会層を発展させることでGDPを押し上げることができる。
プリウス・リコール事件は、グリーン技術、グリーン社会で頭一つ米国を出し抜こうとした日本への牽制球だろう。マラソンで団子状態になった先頭集団から日本が少し抜け出ようとしたところ、米国が姑息にも日本の足を踏んづけてよろめかせたということだろう。日本は、世界のトップランナーだという自覚をもって新たな文明の創造に邁進する気迫が必要だ。GDPは工業時代の思想にしか過ぎない。文明のヴィジョナリーとしての役割を今日本は背負わされている。
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