2012年11月8日木曜日
オバマ再選、太平洋の波高し
大統領選挙が終わった。もう少し接戦になるかと思ったら、選挙人の獲得数ではオバマの圧勝だった。ただし、投票総数では大差がついたわけではない。クリティカル・ステートと呼ばれるオハイオ、ニューハンプシャー、アイオワ等では、オバマは僅差の勝利だった。投票結果以上に国論の分裂は深刻だ。それを懸念してか、オバマもロムニーも開票後の演説で、国民の団結を呼び掛けていた。選挙戦を見ていると、本当にこれからアメリカは党派を超えて団結できるのだろうかと思うほど亀裂は大きいようだ。実際のところ、今回の選挙戦で、富裕層と貧困層、若者と年寄り、白人と非白人、保守とリベラル等、米国内に走る断層がさらに深まったのではないか。
選挙が近づくにつれABC,NBC,CBS,FOXのいずれのテレビ局でも通常のコマーシャルは日を追って少なくなり、ここ1週間は両陣営の選挙広告で埋め尽くされた。しかも日に日に、相手を中傷する内容の選挙広告が増え、ほぼ悪口罵詈雑言である。候補者本人の選挙本部が作成した選挙広告だけでなく、支持団体が作成した応援広告まである。最後に候補者本人が、たとえばI am Barak Obama. I approved this message. と言って、選挙広告を認めるのである。ここまで相手を非難すれば、選挙が終わってすぐに握手をしましょうというわけにはいかないだろう。クリント・イーストウッドも登場して、オバマを非難していたのが印象的だった。
投票当日の午後にもまだ選挙広告が流れていた。投票に影響を与えてはいけないのではないかと思うのは日本人の感覚か。何しろメディアが、どちらを応援するかを明確にした上で報道する国である。日本で考える不偏不党は通用しない。開票も、西部やハワイではまだ投票中なのに東部時間の7時から始まり、全米で投票が終わる前の11時過ぎにはFOXテレビがオバマ再選を報道していた。報道で投票行動が左右されるということはないということなのだろう。
オバマ再選で日本への影響はどうなるのだろうか、とNHKが早速選挙結果分析をしていた。画面にマイケル・グリーンの懐かしい顔が出てきたが、彼の言わんとすることを一言でいえば、日本が存在感をアピールしなければJapan is nothing.ということだ。現実主義を本当に理解していればわかるが、国家間に友情はない。金であれ軍事力であれ力の切れ目が縁の切れ目である。アメリカにとって日本に利用価値があれば「トモダチ」でいられるが、なくなれば弊履破帽のごとく打ち捨てられるだけだ。
ワシントンの知日派も大変だ。日本の影響力の低下は彼らの影響力の低下を招き、将来の仕事にも差しさわりが出てくる。八月に出されたアーミテージ・レポートは日本への忠告だけではなく、彼ら知日派自身の焦燥感の現れでもある。
実際、選挙戦で中国が討論の遡上に上がったことはあったが、日本については、管見の限り全くなかった。2014年にアフガニスタンから米軍を完全撤退した後オバマはアジア・太平洋重視政策をとると予想されている。勘違いをしてはいけないが、アジア・太平洋重視は中国重視であって、日本重視ではない。だからイアン・ブレマーがNHKのインタビューに答えて、日本は中国のナショナリズムを刺激しないように靖国参拝はやめたほうがよい、さもなければグルジアがロシアを挑発して軍事衝突になった南オセチア紛争のようになると警告したのだ。
彼をもってアメリカの学界を代表することにはならないが、わずかでも日本のことを知る学者も中国主体の発想になっている証にはなるだろう。要するに尖閣をめぐって日中軍事衝突になっても、米軍が南オセチア紛争に介入しなかったように領土紛争(領有権争い)には中立の原則を堅持して、介入しないだろうということだ。NATO加盟も認められ、グルジアは米軍の抑止力が効くと思ってロシアに強く出たのだが、当てが外れた。日本もグルジアの二の舞になるな、ということだ。
オバマ政権は今後10年間で大幅な軍事費削減を計画している。オバマ当選で軍事費の削減は避けられない。いずれ、ニクソン・ドクトリンに匹敵するようなオバマ・ドクトリンが発表され、軍事費の重圧に耐えかねて米国は関与政策ではなくオフ・ショアー・バランシングあるいはキッシンジャーの提案する太平洋共同体構想に基づいてグアム以東に撤退するだろう。何しろゲイツ元国防長官も今後米国がとるべき戦略としてオフ・ショアー・バランシングをあげている。またパネッタ国防長官は9月の訪中の際には、中国海軍を2014年のリムパックにも招待したと言われている。
1921年に日本は4か国条約を締結し、日英同盟を廃棄した。将来4か国ではなく米中二か国が太平洋の覇権を分有する太平洋共同体が創設され、日米同盟は日英同盟のように形骸化しやがて破棄されるだろう。その時日本は独立自存で孤高の道を歩むか、米中のバランサーとなるか、孫崎享氏が薦めるように寄らば大樹の陰のバンドワゴン戦略で中国の影響下に入るか。歴史は米中が結託するとき、日本と両国との対立、戦争が生じていることを我々に教えている。オバマ政権の誕生は日本にとって決して吉兆ではない。太平洋の波高し。
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