2012年11月23日金曜日
アメリカも尖閣問題の当事者
アメリカは尖閣諸島問題にまるで他人事のように「中立」的立場を装っている。しかし、ワシントンの政治家たちは中国が同問題で日本と共にアメリカを名指しで非難していることをまさか忘れているわけではないだろう。9月26日『人民網』は日中英の三か国語で、「釣魚島は中国固有の領土」と題する白書をネットに掲載した。そこには前段で領有権問題について日本を非難するとともに、後段で日本に施政権を返還したアメリカを名指しで非難しているのだ。
領土問題は、土地の所有者は誰かという問題(領有権)よりも利用者は誰かという問題(施政権)の方がより本質的である。竹島、北方四島をみれば一目瞭然である。だからアメリカが尖閣諸島問題でわざわざ施政権と領有権を分離して議論すること自体奇妙だ。まさか「領土紛争には介入しない」という歴代政権の不介入中立原則を尖閣問題に適用するための布石ではないとは思うが。フォークランド紛争のときサッチャー首相がレーガン大統領に支援を要請したところ、不介入中立原則を盾にイギリスは積極的な支援を受けることができなかったという。
しかし、尖閣問題でアメリカは不介入中立などあり得ない。理由は二つ。第一に領土紛争は本質的に施政権の問題であり、尖閣諸島の施政権問題について言えば、中国がアメリカを非難しているように、米中間の問題だからである。第二に尖閣問題は、中国の三戦(輿論戦、心理戦、法律戦)のうちの法律戦(中国に都合の良いように国際法を変える)の一環であり、1990年8月のイラクのクエート侵略と同じ、「法による支配」に基づく国際秩序への挑戦だからである。単なるイラクとクエートの間の領土紛争でしかなかったにもかかわらずアメリカは、「法による支配」、「新世界秩序」(1991年ブッシュ大統領一般教書演説)を掲げて大軍を送って介入した。不介入中立原則は「法による支配」という大義の前にすでに破られている。尖閣問題はイラクによるクエート侵略とその本質は全く変わらない。
まさかの時は、アメリカは日本の領土を防衛するのではなく「法による支配」という国際政治の原則を守るために、そして自由と民主主義を守るために、湾岸戦争当時の決意を以て中国と戦う覚悟があることを期待する。もちろん、わが自衛隊もともに戦う覚悟であることを確信している。尖閣諸島問題は日中間の問題というよりもむしろ米中の問題であり、とりわけ国際社会全体の問題である。
2012年11月13日火曜日
いよいよ日中武力衝突か
いよいよ中国は日本との武力衝突の覚悟を固めたようだ。楊潔チ外相が10日に不気味なコメントを出した。
「中国共産党第18回全国代表大会の代表である楊潔チ外相は、9日、北京で「中米関係では、ゼロサムの概念、冷戦思想を捨てるべきだ」と述べました。
これは、9日に行われた中央国家機関代表団のオープンハウスで、楊外相が記者の質問に答えたものです。楊外相は、また「中米には重要な共同利益もあれば、原則的な意見の食い違いと矛盾もある。新しい時代に、両国国民の根本的な利益と世界の人々の共同利益に着目し、両国関係の発展を絶えず推 進していくべきだ」と語りました。
楊外相は、また「双方は、中米の三つの共同コミュニケ、中米両国首脳の共同声明の精神と原則を守れば、両国関係は更に発展していくだろう」と指摘しました。
海洋問題について記者に答えた楊外相は、一部の島嶼の領有権、一部の海域の区分について、一部の国との間に意見の食い違いがあると述べた 後、「私がさきほど言ったのは、南海の南沙諸島の一部の島嶼と海域の区分の問題だ。交渉と話し合いを通して、このような問題を適切に解決すべきだと思う。 問題解決の前では、争いを棚上げにし、共同開発を行う。これは中国の一貫した主張である」と強調しました。
楊外相は、更に「中国が国家領土主権を守る決心は固い。争いのある問題で、双方は接触を維持すべきだ。関係国が中国と同じように誠意を持ってほしい」と述べました。 (CRI:China Radio International Online,2012,11,10日本語版)
この翻訳が正しいとすれば、外相は米中が小異(原則的な意見の食い違いと矛盾)を捨てて大同(両国国民の根本的な利益と世界の人々の共同利益)につくべきと、米国をけん制している。原則的な意見の食い違いと矛盾とは、日本との関連でいえば日米安保や尖閣をめぐる米国の対応であろう。つまり、深読みすれば、尖閣で武力衝突が起きても米軍は介入するなということであろう。
より重大な発言は、後段である。「南海の南沙諸島の一部の島嶼と海域の区分の問題については、交渉と話し合いを通して、適切に解決すべきだと思う」と述べ、明らかに意図的に尖閣問題を交渉や話し合いの対象から除外している。
日本人の多くが誤解しているが、中国にとって尖閣問題は資源問題などではない。台湾の領有問題に絡んで戦後の国際秩序に関わる問題であり、同時に第一列島線以西を中国の影響下に置くための極めて重要な安全保障上の問題である。さらに中国人のこれまでの日本に対する恨みを晴らす絶好の機会でもある。何しろ中国は日本との戦いで元、清、日中戦争(共産党軍、国民党軍ともに)で日本に一度も勝利したことはない。さんざん戦争をしたうえで勝率がほぼ互角になったから独仏は和解できた。中国(特に共産党)が日本に一矢報いないうちは、すんなりと日中友好とはいかないだろう。
これまでも中国は国境紛争や領土問題で平和的に解決した例はない。中印、中ソ、中越、また小規模ながらフィリピンとも小競り合いを起こしている。さらに言えば尖閣問題はもはや単なるに日中間の領土問題ではない。米中間のアジア・太平洋をめぐる覇権闘争の発火点になっている。
尖閣諸島を占領すれば、台湾を含め第一列島線以西に米軍が展開するのは今以上に困難になる。問題は、尖閣問題で日米安保が発動されるかどうかである。米中の関係者の発言を聞くと、仮に発動されたとしても、一般に想像されているのとは異なり、米軍が直接戦闘に加わるのではなく、あくまでも情報の提供や後方支援に限られるだろう。アーミテージやグリーンら知日派は安全保障に対するもっと積極的な役割を日本に期待している。日本が積極的に取り組まない限り、米国が日本に代わって日本の安全を保障するなどということはない。尖閣諸島で武力紛争が起こっても、米国民は米軍が日本に代わって中国と戦うことなど決して容認しないだろう。日中間で限定的な武力紛争が起きれば中国は日本をファシスト、軍国主義と米国での宣伝戦を繰り広げるだろう。
中国は尖閣問題で米国に中国をとるか日本をとるか踏み絵を迫っている。それが外相の真意であろう。中国の侵略があるとすれば、米国大統領就任前で、その前にあると思われる衆議院選挙の時期である。これが大ぼらとなることを祈る。
2012年11月8日木曜日
オバマ再選、太平洋の波高し
大統領選挙が終わった。もう少し接戦になるかと思ったら、選挙人の獲得数ではオバマの圧勝だった。ただし、投票総数では大差がついたわけではない。クリティカル・ステートと呼ばれるオハイオ、ニューハンプシャー、アイオワ等では、オバマは僅差の勝利だった。投票結果以上に国論の分裂は深刻だ。それを懸念してか、オバマもロムニーも開票後の演説で、国民の団結を呼び掛けていた。選挙戦を見ていると、本当にこれからアメリカは党派を超えて団結できるのだろうかと思うほど亀裂は大きいようだ。実際のところ、今回の選挙戦で、富裕層と貧困層、若者と年寄り、白人と非白人、保守とリベラル等、米国内に走る断層がさらに深まったのではないか。
選挙が近づくにつれABC,NBC,CBS,FOXのいずれのテレビ局でも通常のコマーシャルは日を追って少なくなり、ここ1週間は両陣営の選挙広告で埋め尽くされた。しかも日に日に、相手を中傷する内容の選挙広告が増え、ほぼ悪口罵詈雑言である。候補者本人の選挙本部が作成した選挙広告だけでなく、支持団体が作成した応援広告まである。最後に候補者本人が、たとえばI am Barak Obama. I approved this message. と言って、選挙広告を認めるのである。ここまで相手を非難すれば、選挙が終わってすぐに握手をしましょうというわけにはいかないだろう。クリント・イーストウッドも登場して、オバマを非難していたのが印象的だった。
投票当日の午後にもまだ選挙広告が流れていた。投票に影響を与えてはいけないのではないかと思うのは日本人の感覚か。何しろメディアが、どちらを応援するかを明確にした上で報道する国である。日本で考える不偏不党は通用しない。開票も、西部やハワイではまだ投票中なのに東部時間の7時から始まり、全米で投票が終わる前の11時過ぎにはFOXテレビがオバマ再選を報道していた。報道で投票行動が左右されるということはないということなのだろう。
オバマ再選で日本への影響はどうなるのだろうか、とNHKが早速選挙結果分析をしていた。画面にマイケル・グリーンの懐かしい顔が出てきたが、彼の言わんとすることを一言でいえば、日本が存在感をアピールしなければJapan is nothing.ということだ。現実主義を本当に理解していればわかるが、国家間に友情はない。金であれ軍事力であれ力の切れ目が縁の切れ目である。アメリカにとって日本に利用価値があれば「トモダチ」でいられるが、なくなれば弊履破帽のごとく打ち捨てられるだけだ。
ワシントンの知日派も大変だ。日本の影響力の低下は彼らの影響力の低下を招き、将来の仕事にも差しさわりが出てくる。八月に出されたアーミテージ・レポートは日本への忠告だけではなく、彼ら知日派自身の焦燥感の現れでもある。
実際、選挙戦で中国が討論の遡上に上がったことはあったが、日本については、管見の限り全くなかった。2014年にアフガニスタンから米軍を完全撤退した後オバマはアジア・太平洋重視政策をとると予想されている。勘違いをしてはいけないが、アジア・太平洋重視は中国重視であって、日本重視ではない。だからイアン・ブレマーがNHKのインタビューに答えて、日本は中国のナショナリズムを刺激しないように靖国参拝はやめたほうがよい、さもなければグルジアがロシアを挑発して軍事衝突になった南オセチア紛争のようになると警告したのだ。
彼をもってアメリカの学界を代表することにはならないが、わずかでも日本のことを知る学者も中国主体の発想になっている証にはなるだろう。要するに尖閣をめぐって日中軍事衝突になっても、米軍が南オセチア紛争に介入しなかったように領土紛争(領有権争い)には中立の原則を堅持して、介入しないだろうということだ。NATO加盟も認められ、グルジアは米軍の抑止力が効くと思ってロシアに強く出たのだが、当てが外れた。日本もグルジアの二の舞になるな、ということだ。
オバマ政権は今後10年間で大幅な軍事費削減を計画している。オバマ当選で軍事費の削減は避けられない。いずれ、ニクソン・ドクトリンに匹敵するようなオバマ・ドクトリンが発表され、軍事費の重圧に耐えかねて米国は関与政策ではなくオフ・ショアー・バランシングあるいはキッシンジャーの提案する太平洋共同体構想に基づいてグアム以東に撤退するだろう。何しろゲイツ元国防長官も今後米国がとるべき戦略としてオフ・ショアー・バランシングをあげている。またパネッタ国防長官は9月の訪中の際には、中国海軍を2014年のリムパックにも招待したと言われている。
1921年に日本は4か国条約を締結し、日英同盟を廃棄した。将来4か国ではなく米中二か国が太平洋の覇権を分有する太平洋共同体が創設され、日米同盟は日英同盟のように形骸化しやがて破棄されるだろう。その時日本は独立自存で孤高の道を歩むか、米中のバランサーとなるか、孫崎享氏が薦めるように寄らば大樹の陰のバンドワゴン戦略で中国の影響下に入るか。歴史は米中が結託するとき、日本と両国との対立、戦争が生じていることを我々に教えている。オバマ政権の誕生は日本にとって決して吉兆ではない。太平洋の波高し。
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