2013年12月27日金曜日

安倍首相の靖国参拝は安保解消への一里塚

以前日米同盟が解消するのではないかとの懸念を本欄に記したことがある。理由として真っ先に挙げたのが日米の歴史認識の相違である。日中、日韓の歴史認識の相違ではない。日米の間でも歴史認識の相違が日米同盟に暗い影を落とし始めている。そんな中、安倍首相が靖国参拝を強行した。これでは自ら日米関係に楔を打ち込み安保解消、対米自主独立を目指していると内外に宣言するに等しい。  安倍首相は戦後レジームからの脱却こそ自らの使命と思い定めているようだ。その目的実現に向けて安倍首相は国家安全保障会議の設置、国家安全保障戦略の策定、特定秘密保護法の制定など矢継ぎ早に安全保障体制に強化を図ってきた。今後は武器輸出三原則の見直し、集団的自衛権の容認、さらには憲法改定までも視野に収めている。確かにこれら政策は個々には世界の常識に照らして必ずしも非難されるものではない。しかし、これらの政策はいわば「合成の誤謬」を起こし、平和大国日本というソフトパワーを台無しにし、結果的に日本の安全保障を大きく毀損する結果となっている。 確かに安倍首相がこれまでとってきた上記の政策は日米同盟強化に多いに資するものだ。また普天間基地移転問題に解決の道筋をつけたことで、鳩山政権以来日米同盟に突き刺さった棘をようやく抜くことができた。中韓からの非難にも関わらず、少なくともアメリカの支持は得られ、国家安全保障戦略の「日米同盟の強化」の目的は着実に達成されつつあった。しかし、九仞の功を一簣に欠くような靖国神社参拝でこれまでの日米同盟強化の努力はすべて水泡に帰した。 冷戦終焉後共通の目標を見失った日米同盟は漂流を繰り返してきた。今、日米同盟は、現状打破の姿勢を露わにする中国やますます独裁化する北朝鮮の抑え込みを共通の目標にしている。しかし、安倍首相の靖国参拝の結果、日本こそが戦後の国際秩序の打破を目指す現状打破勢力となり、米中が戦後国際秩序を維持する現状維持勢力となってしまった。というのも靖国参拝が象徴する安倍首相の戦後レジームからの脱却とは、日本から見れば第二次世界大戦の敗戦条件の拒否である一方、アメリカから見れば対日支配体制の否定、中国から見れば戦後国際秩序の否認に他ならないからである。 安倍首相の真意が何であれ、首相の靖国参拝は諸外国からは戦後国際秩序の否定と解釈される。いかに安倍首相が意を尽くして説明しても、理解されることはない。なぜならたとえ史実に反していようとも歴史認識は国家、民族のアイデンティティであり、他国から説明されて変更できるものではない。同様に日本国内においても戦後レジームからの脱却は、戦後の平和国家日本というアイデンティティの変更を国民に迫るものであり、単に「英霊に尊崇の念を捧げる」という問題ではない。 安倍首相の靖国参拝の当日のニューヨークタイムズにヒロコ・タブチ記者が、China and South Korea, both victims of Japan's wartime aggressionと記していた。アメリカではもはやこのような歴史認識が広がっていると考えたほうがよい。安倍首相の靖国参拝は、この誤った歴史認識を裏打ちする結果となりかねない。