2009年12月10日木曜日

鳩山政権の自爆外交

大方の予想に相違して、鳩山首相の安全保障政策はブレていないことがはっきりした。普天間基地の移設先はあくまでも県外か国外で一貫しているようだ。10月頃は江戸幕府の「ぶらかし」戦術をとっているのかと思ったが、日米関係が険悪化を恐れる岡田外相や北沢防衛相が早々とアメリカに白旗を挙げて日米合意通り普天間基地の辺野古移設止むなしと決断しているにもかかわらず、県外あるいは国外移設に固執する鳩山首相の決意はますます強固になっていくようだ。まさに幕末の尊皇攘夷派にそっくりだ。今風に言えば、さしずめ尊中攘米といったところか。
 ところで私は10月25日のブログで皮肉を込めて以下のように書いた。
---私は、鳩山外交を断固支持する。それは鳩山の友愛外交や寺島「外交」を支持するということではない。「ぶらかし」外交を続けてきた江戸幕府は最後にはペリーの圧力に負けて開国をした。今度こそ鳩山外交は最後までつっぱって、是非対米「開戦」路線をとってほしい。そうすれば、アジアの「冷戦構造」が一気に瓦解し、国内情勢はもとより国際情勢も流動化するだろう。その過程でこそ国内社会では明治以来の官僚支配構造も、また国際社会ではアメリカの支配構造も崩壊するだろう。
 鳩山政権には是非、政党を壊すことしかできなかった「壊し屋」小沢一郎以上に、官僚支配、米国支配の「壊し屋」になってほしい。鳩山政権に歴史的意義があるとするなら、対米「開戦」の捨て石になることである---

 鳩山首相は奇しくも、太平洋戦争開戦の12月8日に普天間問題を先送りすることを明確にした。これこそ現代の「対米開戦」の宣戦布告である。鳩山首相の「対米開戦」の決断には右、左を問わず反米派を中心に案外共感する人は多いようだ。小沢一郎も党務に専念するという名目で事実上鳩山外交を容認している。湾岸戦争の時にアメリカから恫喝され、巨額の資金を提供させられたトラウマでもあるのか、彼は以後親米から親中に舵を切ったようだ。米国へのあてつけのように大訪中団を率いて中国首脳部への叩頭外交を実行している。
 鳩山首相には安全保障に対する明確なビジョンがないと批判される。たしかにその通りだ。ただし、不明瞭でおぼろげながらも、これまでの冷戦的世界観ではない多国間協調の友愛的世界観に基づいて外交政策を展開しているように思えてきた。鳩山首相が描く世界は日米の既存の安全保障コミュニティの住人が描く国家中心的世界ではなく、非国家主体も交えた多中心的世界あるいは市民が主人公の国家を超えた人間中心的世界なのだろう。そうした世界には米軍基地はふさわしくないと本心から思っているようだ。
 鳩山首相がブレルことなく友愛外交を実現するには、いくつかの条件がある。
 第1に、米国からの圧力、国内の親米派からの圧力をはねのけて政権を維持できるか。
すでに鳩山下ろしの噂が立ち始めている。後釜と噂されているのは菅直人である。アメリカは反米政権にはさまざまな手段で圧力をかけてきたことは歴史が証明している。はたして鳩山に国内外からの圧力をはねのけて政権を維持できる力量があるのだろうか。鍵を握るのは間違いなく小沢一郎だ。小沢が国内外からのアメリカの圧力を凌ぐことができれば鳩山政権も存続できるだろう。 
 第2に、日米安保、日米関係をどうするのか。日米地域協定の改定や米軍基地の整理・再編をマニフェストに掲げているが、問題はそれだけでなく日米安保体制、日米関係そのものの見直しは避けられない。つまり「影の外務大臣」であり事実上の外務大臣である寺島実郎が繰り返し強調している日米関係の再設計である。寺島に腹案はあるのだろうが、どのように再設計するかはいまだに不明だ。
 第3に、日本の安全保障政策をどうするか。米国との対等な関係を維持しようと思えば、通常は自主武装に踏み切らざるを得ない。すくなくとも集団的自衛権の解釈を変更し、できれば憲法9条を改定し、さらに国防費を少なくとも諸外国なみのGDP3パーセント、現行の約3倍にまで増額し、さらに核武装をもする必要があるだろう。この自主武装路線でなければ、日米同盟に代わる、あるいは補完する全く別の安全保障体制を構築しなければならない。たとえば日中軍事同盟、日米中安全保障同盟、東アジア集団安全保障体制などである。
 恐らく鳩山首相は日本の安全保障政策や今後の日米関係について深く考えてはいないだろう。「仲よきことは善き哉」くらいにしか考えていなだろう。こちらがよいことをしているのに相手(米国)が怒るはずもないないと軽く考えているのではないか。
 鳩山首相の友愛外交が今後もブレルことなく続けば、前述のブログでも書いたように、国内政治だけでなく国際政治にも大きな激震が走るだろう。その時日本は国際社会で今のような地位を維持できるかどうかはきわめて疑わしい。鳩山政権の友愛外交は自爆外交となり国内外の秩序を吹き飛ばし、日本に文字どおり「回天」をもたらすだろう。